島本彦講演会
[編集版]

第42回名大祭、青空講演会「人間の行動欲をかきたてる」
名古屋大学第2グリーンベルト、平成13年6月10日(日)10:00AM〜10:50AM

講師:島本和彦(漫画家)


(音楽スタート)
―それでは、これから島本和彦氏による、講演会を開演します。皆さん拍手でお迎え下さい。


はい、みなさん、おはようございます。
(「おはよーう!」)
よォーし!
いいか、今日はいい話しにきたワケじゃないぞ、ハハハ(笑)。まえ一回ね、北海道新聞主催の講演(※1)でいい話して失敗したから!
今日は、ただ盛り上げよう、と思ってきた!そういう風に依頼されたもんで。

よし拍手、よしいいぞ。
だから、みんなも盛り上がって欲しい。
ということで、最初はいい話をと思っていろいろ考えて来たんだけど、実はね。ま、天気もいいということでですね、やってきましょうか!

それでは、題目ですねこれ、
人間の行動欲をかきたてる」ていうのは、こちらの主催者の諸君が考えたことなんですけども、これに沿ってわたくしが、いかに漫画家になって今まで来たかということを、このテーマを中心に、テクニック的な面とか別として、一通り考えてきました。それをお話しながらいろいろやっていきたいと思います。

名古屋ですから、大学の講義ということで、言っちゃいけないことも言っていいかなと思っていたんですけども、けっこうカメラが来てると(笑)。その、個人的カメラが来てると(笑)。今、個人的カメラもインターネットとして何処に流されるか解らない。恐ろしい時代になってるから、少し抑えていきたい(笑)。ということでですね、やっていこう。

まず、私の漫画を読んだ事は…、島本和彦の漫画が……。
………。
……。
皆さんこんにちは島本和彦です!
(爆笑&拍手)

自己紹介が遅くなりました。漫画家です。二十歳の時にデビューをして、大学生2年の時にデビューかな。そして、大学に在学しながら連載をちょこちょことやっておりました。大学は半分が、一年の半分が休みなので、半分は故郷の北海道に夏休み冬休み帰って描いて、そして大学…大阪のですね、大阪の大学ですね、はいあのぅ(笑)、いっておりました。そういうことで、島本和彦の漫画を読んだ事がある人は手を挙げてみよう。
お〜ぅ、よし、よしいいぞ(笑)。え〜とですね、それでは私の作品名が出てきても大丈夫だね、うん。

じゃまず、ナニが俺を駆り立てて漫画家にしたかという話からしよう。
(拍手)
よっしありがとう。

まず、まあ、基本的には、
手塚治虫がですね、漫画編集者から逃げる姿が非常にカッコイイと。あれがやりたいな〜と思ったんですよ、子供心に。

藤子不二雄先生の『まんが道』があるじゃないですか、あれで手塚治虫先生が編集者が来るときに、窓に黒い紙を貼って居ない様に装ってた。カッコいいな〜。それからあの編集者が追ってきたら、タクシーのこちら側から入って、ドアを開けて入って反対側から出てったと。カッコイイなぁ〜。
もう何というかヒーローですよね。手塚治虫先生の作品の何を描きたいってワケじゃないんですよね、
とにかくたくさん作品を描いて編集者から「逃げる!」カッコよさを味わいたいなと思って、この業界に入ろうと思いました、小さい頃。

それでですね、中学生の時に、行動欲ということで考えてみますとですね、漫画の前に、ラジオを私よく聞いてたんですけど、ラジオパーソナリティの中山エミコっていう歌手がいたんですよ、知ってます?知らないですね、札幌だけですね、はい。
その中山エミコという歌手がですね、コンサートを開いていたんですけど、私はそれが結構好きで、無料の公開録音という形でコンサートあってそれに行ってたんですよ。それで時間…集合時間というか開演時間何時間前に集まれば前の方に座れるかということを考えてですね…今日一番早く来たひと誰!?ゾロゾロと来たからわからないか。早く来たと思ってる?いつ頃きたの?9時ぐらい!?なんだ全然早くないじゃん(笑)。
まあ、ね、うん。どうせね入れるしねハハハハハハ、大丈夫だろうということだね。

それでその中山エミコのね、公開録音何回かあったんですよ年に。私はそれにことごとく顔を出していて。だいたい札幌っていうのはまだヌルくてですね、特に私が中学生のころはヌルくて、1時間前に行けば確かに1時間前に行けば、前の方とれたんです。
それが、キャンディーズのコンサートの時、これで私は一応ショックな出来事ですね。やっぱり全国区だから1時間前ではダメだろうということで、野外コンサートだったんですけども、4時間前の朝の6時頃に。ヌルいでしょ、それでも今と考えたらヌルいよね、その時間に行ったら、それでも18番目ぐらいだったんですよ、まだそんなにキャンディーズも人気出てなかった頃だったんで。

ところがですね、その1時間後あたりからすごく人が来出して、で、何処に列をつくるという明確なアレが無かったんですよね、整理がされてなかったんで、どうなったかというと、その野外コンサートのリハーサルが始まった瞬間、ぐちゃぐちゃになっちゃたんですよね。開場の1時間前ぐらいに。
そこで全てが無になったんです。その時に、結局私は後ろの方に座ったんですけど、これはもう並ぶのはヤメだと思いましたね。
ホントにすごく私はキャンディーズが好きだったんですよ。で、だいたい私はあまりね、ド真ん中を好きにならないですよね、だいたいキャンディーズといったらランちゃんでしょ?こんな話してもしょうがないんだけどさ。だいたいランちゃんなんですよ、それで、本格派んなるとスーちゃんなんですよね。一番歌うまいのスーちゃんでしたから、キャンディーズって分かるよな、分かるよな?

私はミキちゃんが好きだったんですね。真ん中に、一回しか真ん中になったことがないですね。必ずなんか、テレビ見頃食べ頃笑い頃ではね、セリフ少ないし。なんかね、不遇なんですよね。まあそんなことはどうでもいいんですけどね。
それで、ファイナルコンサートの時も、私は、なんていうか俺はそんなミーハーなキャンディーズファンじゃないんだと、キャンディーズファンてミーハーだよね(笑)。そこで私はファイナルコンサートは行かない!と決めてですね、チケット買わなかったんだけど、最後の最後にやっぱり行こうとね(笑)、心の弱さゆえに買ったんですチケット。そしたらやっぱり、ものすごーく広い会場の一番後ろの二階席で、もう、米(笑)!米がみっつ並んでんですよね。それに向かって、あらんがぎりの力でですね、「ミキちゃぁん」て叫ぶんです。これダメだなと。これ、このままでは俺ダメになると。

あのー、カメラ持ち込み禁止だったんですよ。でも中学生独特のですね、ズルイ考え?お菓子は持ち込み禁止じゃなかったんです。だから、キャラメルコーンとコーンフロストをくっつけたのかな?コーンフロスト側にカメラの本体、キャラメルコーンの方に望遠レンズ、これを仕込ませてですね、行ったんですよ。それがですね、望遠レンズを持っていても何の力にもならないですよね。
まあそうゆうことで、イカン、それでれでその時に最初の、もう
並んでいる場合ではない、というショックですね、内側に、やっぱりこう、なんていうね、獅子身中の虫にならねばダメだと(笑)。

高校時代に、
『さらば宇宙戦艦ヤマト』の映画が封切られました。その時にならんだヒトは手を挙げて下さい。あっ、いるね。公開初日、並んだ?どこで?地方どこ?あ、名古屋?ならびましたか。私もならびましたよ。
それでね、前情報は絶対入れない様にして行ったの、楽しみにしてたから。宇宙戦艦ヤマトの続編なんて考えられない!そこで、もうウキウキさせながらならんでいたんですけど、その列の人間はもう、キャンディーズの時と違って、同じ並んでるヤツはトモダチなんだよね、同志なんだよ(笑)。心の交流がなんかある。
でもね、分かってない同志がいたんだ。その時オールナイトニッポンでヤマトフェスティバルみたいなやってたんですよ、その同じ時間に。それをかけてた。そしてだね、ラジオから名場面が流れてくるんですよ。
俺がね、一切アニメージュを買っても開かなかったんだよ!もう、今でもそうだけど情報は入れたくない!なぜかってゆうと、情報いれたら頭の中で勝手に考えて本編より面白いもの考えちゃうんだよね。あれがキツい。

例えばね、ロボコップ2なんだけど、話ズレるけど、ロボコップ2の、特写のね、写真を見ながら考えたのは、ロボコップの息子がね、親がいなくなったということでグレて、不良グループに、犯罪グループに入る。そして、
その凶悪少年犯罪グループを捕まえる為に駆り出されるのがロボコップなんだよ!そして自分の息子を前にして、その荒んだ姿を前にして、チャチャチャチャ〜チャ〜♪ですよ、チャチャチャチャ〜、これを観たくてね、行った。全然違う少年だったね(笑)。ぜんぜん少年活躍しなかったね。

ま、そういうこともあって、前情報入れないんですけども、その徹夜で並んでいた時にね、ラジオから流れてきた言葉がですよ、
「フッフッフッフ、ヤマトの諸君」「デスラー総統生きていたのか!」だったんですね。もう、フ・ザ・ケンなよお前ー!生きてたのかデスラー!もうアタマん中ぐちゃぐちゃ。テレビ版だってさ、「神よガミラスのために泣け」で死んだ奴が、最終回で蘇って、また炎の中で宇宙に消えたと思ったらまた生きてたんだよ。どーしてなんだよって考えちゃうじゃない。
もうね、それを聞いてね、もうダメだなと思ったんですけど、本題はこの後、東京で、そのオールナイトの中では東京で徹夜で並んでる人のトコロへ行って、西崎プロデューサーと松本零士先生が姿を現した。で、握手したりサインまでは書かなかったかどうか記憶にないんですけども、握手をした。それを聞いてね、
北海道で並んでる場合じゃないと思った。名古屋で並んでる場合じゃないと思わなかった?思うだろ?も、これはダメだなって、まず、並び手の立場でそう思ったのと、「松本零士おいしいな〜」って思ったのね。自分が原作の映画に、ファンが並んでるところに、颯爽と登場するこの気持ちよさ?これは是非ねぇ生きてる内に味あわなけりゃいけないと、そう思った。

それが、漫画書こうとかそういう動機ではなくして、どんな事あってもプロにならなければいけないと思った、行動欲をかきたてられたとこかな。それがけっこう記憶に多いんだよね。

それで、ま、
『999』にも並んだんだけどね。もう、寝たね。なんてゆうか面白くないからじゃなくて、疲れて。初日並びはダメだ、もう。『999』の時はショックだったよ俺。もう、並んで、入って、入った瞬間寝て、なんか気がつくとキャプテンハーロックがね、アルカディア号の上に立って、こう舵握ってんだよね。「あーカッコイイ〜。カッコイイけどなんで上に立ってんだ〜」(笑)。で、またガクッと寝て、起きたらもう、地球に帰っててね、テツローがメーテルを追っかけてるんだよ、「メーテル〜」。もう涙が出てくんだよ、途中見てないんだけど(笑)。なんか悲しくて涙が出てきて、あーいい映画だったなぁと思ったけどね。まあいいや。

ま、そんな感じなんだよ。それでまあ、プロにならなきゃなと、思いました。

そこで、ここで〜質問コーナーに入りま〜す。島本和彦の歴史で、だんだん退屈になってきたところに質問コーナーを入れよう、という企画ですね。
質問をスタッフから受け付けました。それでは、第一問、曲の準備いいですか?
「どうしてそんなに熱い漫画が描けるんですかー?」はい曲ぅー。ペンネーム、キタムラリョウコォー。いい曲だね〜。これはね、私がウチで録音してきたんだよね。曲の選曲を間違えると燃えなくなっちゃうからさ。

どうしてそんなに熱い漫画を描けるかっていう内容なんですけど、
どうやったら熱くない漫画をかけるか教えて欲しいんすよ。あのね、面白くてね。俺ね、熱くなくすると面白くなくなちゃうの。それで、面白くて熱くない漫画の描き方を教えて欲しいんすよ。絶対そっちの方が俺ね、世の中の認知度高まると思う。電車ん中で漫画読んで読み棄てるヤツラに読んで欲しい。きっとね、俺のファンはそうじゃないと思う。きっとお金出してね、新刊を買ってくれて、同じ本がまた装丁新しくなって出ても、また買ってくれるんだよ。ありがたい、俺はありがたい、ホントに。

だからね、あとがきとかを書き足すのはその理由による。同じ人が買ってくれるんだから申し訳ないんだよね。だからね、恥ずかしい話ね、新刊も既刊もね、発行部数あんまりかわんないんだよね(笑)。だから、既刊が出し直したとき、出版社はビックリするんだよ。
「なんでこんなに出るの?」「いやぁ同じ人買ってくれてるんですよ(笑)」。ありがとう皆さん。もう申し訳ない。

それで、まあ、どうしてそんなに熱い漫画を描けるかっていう、…こん中で漫画家の人いないよね?いたらね、ちょっと後でレクチャーして欲しいね。いないね?オッケエ。(※2) うしっ、じゃあこの曲は絞ってもらおうかな。はい。

第2問行きま〜す。クエスチョン、
「もしドラゴンボールがそろったら何をお願いしますか?」はい曲ぅ〜。いや、次の曲流してもらえるかな。
よし。いい曲だね〜。ドラゴンボールもそうなんだけどね、まあ、おもちゃのライフル銃かな。ハハハハ。この曲がかかったからね。

あの、宝くじってあるじゃない、宝くじ当たったらどうなるってシミュレーションしたことあるよねみんなね。誰しもがある。で、おそらく誰しもが最後不幸のドン底だっただろう。
あのね、リアリティを持って考えてみると、宝くじ当たったら、必ず不幸になるんだよ。あの、何億円ね。いや、必ずとは言わないよ、そりゃね。
宝くじあたったらやっぱり、1円も使わず寄付だよね。

これは、1円も使わず寄付をしたという事実を自分の人生の脈、この、大木の中にね、その年輪を刻む為にね、やる。もう、それで意味があると思う。
それで、あの、なんてゆかな、それを例えば何に使うっていろいろ考える。
だけどね、やっぱりまず3億円当たったらね、自分の表情が、3億円当たったのとは違う人間に演技をしなきゃいけないだろ?悟られちゃならないだろ?その時点で、無理が生じるよな、ゼッタイ出来ないもの俺それ、顔にでるもの。だから3億円当たったら1億円当たったって言って、2億円フトコロに入れるとかな。そういう手段しか無いんだよもう。

でもな、1億円当たったって言って、2億円を勝手に使った、もうそれはいいよ消して。あのー、ゼロゼロナイン飛ばしてくださいね。
えー、そうだな、なんだったっけ?ま、とにかくね、モノは努力して手に入れなきゃダメだね。うん、努力が価値だよな。
私もね、よく編集部からね、イロイロ物を貰ったりする、すごく嬉しい。しかしな、自腹切って金だすヤツの方が、やっぱり自分のモンなんだよね。だから、長くこれは使おうとか、自分にとって価値があるなと思うものは、金を出すんだよ。

お、いい曲流れたね。あの、質問コーナーまでとっといていいですからね、はい。

まあ、そういうことでですね、ドラゴンボールがそろったら何をお願いしますかっていうのは、あんまり考えたことはないけど、一応ドラゴンボールは全部読みましたけれど、途中で、ま、さっきのロボコップじゃないけども、これ最終回どうやって終わるんだろなって、ものすごくイロイロ考えたんですけどね、あの、最後は殺されて、ドラゴンボールを他の仲間が集めて、悟空が生き返って目が覚めて終わりかな?って初期の頃は考えた。もう、そんなもんじゃない方に物語はどんどん展開して、もう、こう、サポートできなくなっていきましたけどね。いい話でした。はい。

えー、そうですね、じゃあ、そろそろ次行こうか。

そこでね、話の続き。島本和彦が東京に持ち込みをするの回だね。

最初SFを描いてたんですよ同人誌で。で、SFを描いててね、小学館と集英社に持ち込んだんですよね。まあ隣同士だからいいだろうということで。両方持ち込んだんですよ。そしたら、小学館の方は、「これちょっと、トビラ、コピーとらしてもらえるかな」とか言ってもらえたのね。これはちょっと脈あるかなと思って、毎月持ち込んだ人間の中で一番良いものが、増刊少年サンデーに、「今月の優秀作」ってトビラが載るんですよ。
それを楽しみにしててね、買ってきたヤツをね、バッと開けると『ガリ勉くん』って書いてあったんですね。私のはね、えー、タイトル言うの恥ずかしいな、『戦えトータス1号』って言うんだけど(笑)。
『ガリ勉くん』だったんですよ、なんでコイツに負けたんだろうって、もうそのときは自信のカタマリだったから、もう生意気盛りでしたからね、大学1年生ですから。

それでですね、どーうして負けたのか一生懸命考えて考えて、こりゃジャンルかな?学園モノだからかな。じゃ俺も次は、わかった、学園モノで行こう。SFだからダメだったんだ。そして、女の子が絡んでくる恋愛モノ、うん。そして、スポーツで戦う。これだ、
この三つが揃えば誰にも負けない、と思った。
そこで、えー、描いたのが『必殺の転校生』って作品ね。
必殺技を使って転校生が、スポーツで戦って女の子をモノにするという、もう非の打ち所のない、誰にでも分かる作品。これを描きました。
えー、そしたらね、案の定佳作に入ったね。
それで、佳作に入って、まあ、案の定とは言えですね、嬉しかったんですけど。

私、コンピューター占いとか信じてて、コンピューター占いでね行動欲をかきたてられるトコあるんですよ。
で、昭和56年だったんですけど、その時ね、1981年かな。その時に、なにかおっきな事がある、とコンピューター占いで出てたの。で、それを俺は目指してたんですね。その時におっきい事を起こすんならこれ意外はイヤだと思って、
他におっきいことをあまり起こさなかった。で、俺はこの年で必ずデビューすると決めて。
えー、そのあとね、コンピューター占いで、例えば、
あまりいいこととか書いてなかったりする時は破り捨ててしまいますけどね。

やっぱりね、プログラマーの思考、考え方ってあると思うんだよね。プラス思考のプログラマーとね、マイナス思考のプログラマーがいるんだよ。人間の作るもんだから、ねえ。このバイオリズムかなんかわかんないんだけど、この時期に、例えば悪いとする。それをどういう解釈で、ことを文章で直すかってことを、プラス思考で書かなきゃいけないよ。それをマイナス思考で書く、その占い自体が、もう俺は信用しない。うん。

嘘でもね、信じてると本当になっちゃうって事があるんだよ、ね。だから、ヤな友達が来てさ、「おまえー、明日、金拾うよ」、とか、バカにされるじゃない。そん時はさ、いいことじゃん金拾うのな。拾うんだ拾うんだ拾うんだと思うんだよね。だからこう、イヤなヤツでも、あくまでもね、いいことささやき掛けてくれたら信じるのよ。そうすると、カタチになるからね。いいカタチを、いい呼びかけをしてもらうことはね、スゴイ、何でも拾っちゃうっていうかね、そういう風にね、一応してるし、すごく信頼してる人でも、マイナスのこと言ったら、耳から入れて出す、と。そういう風にしてる。うん。

それでですね、そうそうそう、デビューしたんだけど、あの、今の私の絵柄を見てもわかると思うんだけども、ラブコメの絵柄じゃないんですよ。
当時ラブコメ全盛だから、編集部に佳作の人間全部呼ばれた中で一人だけ、
「島本くん島本くん、ちょっとおいで。キミはね一番この中で後れを取ってるっていうのは判るか?」えっ?意外な、意外なことを言われてしまった。「何に遅れてるんですか?」「女の子がカワイクないんだよ」。あ、なるほどー!

とですね、困ったなー。「女の子カワイク描けないとね、みんなに置いて行かれるよ」って言われて、奮起したかなぁ?してないなぁ(笑)。

今でも女の子描きたいとは思っているんですよね。描けないんだよね。いやあ、どうしたらねぇ、いいのかねぇ。
あの、女の子をカワイク描こうっていう言う行動欲がかきたてられないですよね。一度ね、例えば、
『逆境ナイン』描いてた時に、ヤングマガジンに載ったのりピーの写真がカワイかったから、その一枚の写真に、あ、これはいい!と思って、桑原さんっていうのを出したんですけど。

その後もっとね、その時期っていうの、やっぱ漫画家っていうのみんなおんなじ事考えるようで、誰も彼ものりピー描くんですよね。うん。そのちょっと前は、クレアラシルのコマーシャルに出たね、なんていう子だったかな?えー、その子が、もう誰も彼も漫画に出した。
やっぱ一番上手かったの桂正和先生ですよね。電影少女?あれののりピーは上手かったね。

それでやぱっりね、私、女の子描くの上手くないんですね。あ、どうもありがと。
それで、まあ、一応注意されて、頑張ろう、と。新人だしね。負けるもんか、でも、ラブコメは描けないから、
ラブコメのフリをして、たばかってですね、フリをして、好きなことをやろう、っていう風に考えてましたね。

で、まあ、スタートダッシュで頑張らないといけないってことで、もう、デビューしてからは、物凄い速さでネームをきって、物凄い速さで編集部へ送って。えー、そりゃマラソンでも最初に、遅い方のグループに入っちゃうと、もう、前に復帰するってのが凄く難しくなってくるから、最初に何がなんでも描かなきゃいけないってことで頑張ってやりましたね。

大学時代もね、凄くスケジュールが私ギッシリで、漫画以外にもギッシリだったんですけど、そのギッシリのスケジュールを担当編集者に見して、私はこんなに忙しいんですよ、すごいでしょうって言ったけど、後でプロになった時に、もうしごく恥ずかしくなっちゃってさ。

それどころじゃ無かったんですよね。『炎の転校生』の週刊連載やった時、一年間、漫画を描くことと、ご飯食べることと、寝ること意外はほとんどしなかった。
まあ、なんてかな、丹下段平のセリフで言うとね、「ボクサーに必要なのはファイティングマシーン、つまり闘う機械だ」っていうヤツだね。漫画を描く機械、もうその丹下段平の言葉がカッコイイなぁと思ってたね、
俺はその時自分がジョーだと思ってたから。

で、大学時代自分はキャプテンハーロックだと思ってた。それでね、まだコスプレという言葉もないし、誰もやってなかった時代にやった!
あーの、その少し後に
『ファンロード』という雑誌が創刊されて、ガンダムのコスプレをしてるのが竹下通りに出現するという「トミノコ族」とかいう名前がつけられたけど、俺の方が早い。威張れることかどうかはわからないけど。それはそれとしてですね。

週刊連載が始まってですね、週刊連載ってのは凄いんですね。行動欲かきたてられるってゆうか、環境も凄いし、担当編集者がやぱっり一流編集部からやってくるっていう意識があるせいかしらないんだけど。

もう、30分越えちゃったなこの時点で。

なんてゆうか、ファンレターの数もあるし、もういろんな人が読んでくれてる。書店の棚、平台にね、自分の描いた絵が飾られる、もう並ぶってのが、スゴイ意欲をかきたてられるから、作品がどんどん化けてくんですよ。自分以外の力が加わっていく感覚がわかるの。
だから、その時点で週刊連載やめて、小学館じゃなくあんまり発行部数の出てない雑誌に移るということは、ある意味ね、作家生命が半分以上消えてくってことなんだよね。死を意味するんだよ。これはね、体験したものじゃないとわかんないよ。もう、頼れるのは編集者だけ。
そりゃ、編集者がね、おっきい編集部にいる編集者は、自分のバックにこの会社がついていると思うと、凄くなんかこう啓発されるっての?しゃべる言葉がメジャーな言葉しゃべるし、目もメジャーな方見るしね、変っているんですよね。

ところがね、そうでない編集部はね、仕方がないんだけど、何処を向いていいか方向性がはっきりしない部分があるんですね。
おそらく、漫画を初めてつくった編集部とかってのも、最近よく多いから、どっちの方行ったらいいのか、上から教えてもらうことも少ないと思うんですけども。
ホントに漫画家が、自分の力だけで自分をかりててて、書き上げなきゃいけないっていう、物凄く苦しい闘いをしているということを、みんなにわかって欲しい。

そして、ある意味、おっきい会社で働いてる人は、それはそれで失敗出来ない、という重荷を背負いながら、よく週刊連載で、「なんでこんなのが載ってるんだよ〜」ていう風に思うものが載ってる時もある。だけどね、それは本人が一番よくわかってるしね、その押しつぶされそうなプレッシャーの中で、しかし毎週上げなきゃいけないという、物凄い状況で死ぬか生きるかの闘いをしているんです。
だから、メジャー作家も、そうでない作家も、死ぬか生きるかの闘いをしてる。だからみんなはそれをよくわかって欲しい。
だからね、面白いなって思ってる単行本を、新刊で買おうな(笑)。

まあ、それはいい。もう、次の人がねスケジュールがあるからね、50分キッカリに終了するよう言われてる。
えー、途中トバす。

プレゼントコーナーもちょっと用意したから。うん、これがね、ま、この、行動欲を実際にかりたててもらおうと思ってね。

とにかく、そういうことで、えー、いろんな仕事に手を出して、いろいろ回り回って今ここにいるということになるわけです。
それでインターネットの方に見ると、「島本氏は今後どうしていくのか」と、書いてありましたので、今後どうしていくかをちょっと、発表してから終わりたいと思いますけれども。
一回ね、映像作品撮ってみたいなあと思うんだよね。

それで、俺、絵がね、今回スタッフに質問出した中でも、「なんでそんなに暑苦しい絵をやめないんですか」っていう質問もあるわけですよ。
これやめないんじゃなくて、俺は暑苦しくない絵を描きたいの。トレンディってゆうの?もう。それも死語?もう、今風のね、デフォルメされていない、絵を描きたいんですよ。
でも、そういうの描こうと思って勉強し始めて、しばらくして、石森章太郎そっくりのヤツが他に現われると、いやコイツには負けられない!と思っちゃうんだよ。もう、どっちが負けらんないかというと、そっちなんだよ。
だから諦めた。
俺は俺の絵で行く。うん。石森の絵で負けらんないといって俺の絵で行くてのも変な話だけど。

ね、そういうふうに決めた、決めたの。だからね、絵は変えられないんだけど、美少女も描けないんだけど、映像作品だったら、頭ん中だけじゃない、使うものは。実際は、本当の人間が動くわけじゃない?ね。で、美少女だって出すことは出来るのよそれは。だから、そっちをやりたいね、一回ね。それで面白いかどうか。
で、今度ね、『仮面ライダーアギト』が夏休みに映画になるじゃない。それのメイキングビデオってのを、別で発売するらしいんだけど、それの監督んなった!
だからね、ちょっとそれ期待して。あのー、アイキャッチ入れるから。
俺の描いた絵でアイキャッチ入れるから!「ジャジャジャジャン」って入れるから。それだけを見る為に買ってくれ。
いろいろその他にも考えてるから。
えー、これ言っていいのかどうかわかんなかったけど言っちゃった。

それでね、その他にもいろいろね、楽しいことはあるんだけど、とりあえず、そっちの方がね、進んでいきたいなぁってことを考えているってことを言ってですね、時間も、もう2分ぐらいしかない。いいか。

集めていい?マズイ?
どうしようか。プレゼント。50分まであと2分しかない。いいか?

えー、昨日ね、名古屋の商店街行ったらね、こんなの売ってんのよ、『ヤマトダブルジオラマ』。
買っちゃた。コレ俺の為に買った。もったいなかったし。
これの、もう一個の、土の中に埋まってるヤツ持ってる人がいたら、私んトコに下さい。

それでですね、買ったんですけど、コレはあげられないんですけど、コレを恥ずかしいから入れる為に買った袋、これに同じ物を描きました!
コレを誰かにやるから来い!来いって言っても困るよな。

階段の前までだったら集まっていいそうです。そこ、そこに集まって下さい。
えー、よし、時間無くなっちゃったから行くぞ。
(サイン色紙を何枚か配る)
押さないでくれ。
(争奪戦…)
ごめん、ケガしないでな、ケガしたら大変なことになるから。

それでな、
行動欲をかきたてるってことで、けっこう行動欲かきたてられただろ?

これは、ハム太郎の、スケブだが、俺がひとつハム太郎を描いてみた!
(スケブを一枚ずつめくる)
「おりゃー」(おお〜!)
「燃えるハムたろ〜」(おおお〜!)
「やる」(ありがとうがざいます〜)

最後、昨日街を歩いていたら、え、「長いものには巻かれろ」っていう、Tシャツを見つけた!(大歓声)
それで後ろに絵を描いた、その絵を。(おおお〜!)
(遠くに投げる)

ごめん、これで終わりなんだ。(※3)

はい、えー、はい、これでね、もう時間なんで終わります。今日はね、集まってくれてどうもありがとー!盛り上がった〜!
(拍手)
貰えなかった人悲しまないで〜。
それじゃ、みんな、さよなら。コレを持ってる人は私んとこに送るように。

―ありがとうございました。島本先生にもう一度拍手をお願いします。本日は、島本和彦氏による講演会に起こしいただきありがとうございました。


※1)2000年4月22日、北海道経済センターで開かれた高校生対象の講演会。講演タイトルは「漫画ばかり読んでちゃだめだ!」。
※2)実はいました。市内在住の銃撃戦漫画家がいらしていた模様。マンガパワーでカゼが治ったそうデス。
※3)実際には、コメ兵で買った無印バイザーにその場で「店長」と書き、「初期型アニメ店長バイザ−」として出そうとして忘れてたそうで。